水の袋で温める床暖房「アクアレイヤー」の開発者に独自取材。著名建築家が注目する理由を解明。
CLASS1 ARCHITECT Vol.19で、建築家の安宅研太郎氏が使用した建材として紹介したのが「アクアレイヤー」です。
アクアレイヤーは、株式会社イゼナによる“水の袋”を施工した床暖房。水の対流と蓄熱性を利用することで常に熱を均一に分布させ、低温やけどを防ぐ新たな暖房システムです。
今回の記事では、CLASS1 ARCHITECT Vol.19の本編では紹介しきれなかった「アクアレイヤーの開発秘話」を紹介。また、従来の床暖房と比較して、強みや特徴をより詳しく解説していきます。
お話を伺ったのは…
株式会社イゼナ
前田朋子さん
誌面未掲載 アクアレイヤー開発秘話
CLASS1 ARCHITECT Vol.19では紹介しきれなかった「アクアレイヤーの開発秘話」を紹介します。
従来の床暖房に対する様々な疑問
元々、床暖房の製造・施工などを行っていたイゼナ社。アクアレイヤー開発のきっかけは、既存の床暖房に対して多くの疑問を抱えていたことでした。
①低温やけどへの危険性
従来の床暖房(電気式床暖房)は、体温より高い温度に長時間触れ続けることで発症する「低温やけど」の危険性がありました。
実際、「座っているとお尻の下が熱くなり過ぎるため、使用を止めた」という話を何度も聞いていたといいます。
②部屋の全面に施工するのが難しい
床暖房用のシートヒーターや温水配管式などは、建物の断熱性能に関係なく、床暖房を入れたい面積に敷き詰めるのが一般的。断熱性能が高い家でも必要以上の容量のヒーターを床に敷き詰めてしまい、オーバースペックになり、電気基本料金が大きくなってしまうこともありました。
また、費用がかさむことへの不安から、部屋の全面には施工せず、必要な場所のみに設置すると、温かい床と冷たい床ができてしまい、快適な床暖房とはほど遠い状況でした。
③立ち上がりが遅い
エアコンや他の暖房器具と異なり、スイッチを入れてから立ち上がりが遅いことが床暖房の欠点だと言われていました。
このような理由により、低温やけどが気にならない、部屋全体をすぐに暖かくすることができるような、新たな床暖房の開発に踏み切りました。
新たな床暖房を考えるも、十分な技術がなく諦める
そこでイゼナ社が考えたのが、水の蓄熱性を利用した床暖房。水の対流を利用すれば一定箇所に熱がこもらず、建物の断熱性能に合わせた熱源と熱量で部屋全体に設置することができる。さらに蓄熱性により部屋を暖かく保ち続けることができると考えました。
しかし、床暖房は床材の下に設置するため、基本的にはメンテナンスができません。床暖房にするためには水が水蒸気として30年以上漏れない袋が必要であると考えましたが、その条件を満たせる技術がありませんでした。
30年間水が漏れない袋との出合い
一度はアクアレイヤーの開発を諦めたイゼナ社でしたが、クライアントの紹介で29年間空気が透過しない袋を発見。早速水を入れた加速試験を行ったところ、30年変化が出ない(水蒸気が漏れない)と判断し、「アクアレイヤー床暖房」の商品化となりました。
現在の袋は改良を続けており、更に耐熱性・耐久性をアップさせています。
熱源の自由度も高まり、今では太陽エネルギーを蓄えて使う「水蓄熱アクアレイヤー」として利用方法は多岐にわたって進化しています。
アクアレイヤーと従来の床暖房を比較
こうして開発されたアクアレイヤーは、従来の床暖房と比べてどのような特徴を備えるのか。温水を細いパイプ内に循環させる温水式床暖房などと比較をしながら見ていきます。
温める仕組み
温水式床暖房はポンプによる循環である一方で、アクアレイヤーはポンプなどの動力は使わない自然対流のため、床暖房としての仕組みは大きく異なっています。
安全性
アクアレイヤー最大の強みは、水の自然対流機能が常に熱の分布を均一にするため、特定の箇所に熱がこもらないこと。
従来の電気式・温水式床暖房等の課題であった低温やけどの問題を解決しています。
中間期・冷房期の使用
アクアレイヤーと温水式床暖房との違いに「中間期・冷房期でも使用できる」ということが挙げられます。
温水式床暖房は冬場の暖房でのみ使用されるものですが、アクアレイヤーは冷房エアコンを運転することで、床暖房だけでなく床冷房の効果を持ちます。年間を通して室内の温熱環境を安定させることができます。
熱源の自由度
また、アクアレイヤーは熱源の自由度が高いことも違いとして挙げられます。
電気式の床暖房はシートヒーター、温水式の床暖房はヒートポンプなど、他の床暖房は熱源があらかじめ決まっていますが、アクアレイヤーは温める方法(熱源)を自由に選ぶことができます。
さらに熱源はアクアレイヤー設置後も変更が可能です。温水式床暖房もボイラーとヒートポンプで変更可能ですが、アクアレイヤーはシートヒーター式、温風式、温水配管式、薪ストーブの輻射熱、太陽熱など、建物の性能や床暖房を敷く面積に合わせて熱源を選べます。
メンテナンス
アクアレイヤーのメンテナンスは、熱源に何を選択するかによって変わります。
アクアレイヤーそのもののメンテナンスは必要ありませんが、熱源として温水配管を選択すれば、熱源のメンテナンスは温水式床暖房と同じです。
シートヒーターを用いた場合、アクアレイヤーがヒーターの熱を奪うため、一般的なヒーターで見られる熱劣化がほとんど起きずメンテナンスも不要になります。(コントローラーやリレーなどは通常の機器として寿命があります)
床材の自由度
従来の床暖房は電気式も温水式も、その発熱部分が直接床材裏面に接触していますが、アクアレイヤーは発熱部分と床材の間に熱の緩衝材である水の層を設け、熱を間接的に床材に伝えます。
一般的な床暖房は、40℃~50℃程度の熱が床材に触れます。熱に弱い無垢フローリングなどを使うと、温度変化で反りや隙間ができてしまうことがあります。
一方でアクアレイヤーは、25℃~30℃の低い温度域で温めます。他の床暖房のように40℃以上の高い温度で温める必要がないため、そのぶん床材への負担も小さくなるため、無垢フローリングでも使用可能。床材の自由度がより高くなっています。
立ち上がり
アクアレイヤーそのものの立ち上がりスピードは、他の床暖房と大きく変りません。(同じ蓄熱量のコンクリート埋設より立ち上がりのスピードは早い)
しかし、水の蓄熱性を利用したアクアレイヤーは、朝出かけるときにスイッチを切っても、夕方に帰ってきたときに「温かさが残っている」と感じられるほど。スイッチを切っても温かさを残すことができるため、床暖房が立ち上がるまで寒い部屋で待つ必要がなくなります。
コスト
アクアレイヤーの導入費は、一般的にイニシャルコストが安いとされている電気式床暖房よりも高くなります。
そのぶん、蓄熱力を活かして床暖房の運転時間を短くできたり、メンテナンス費が抑えられるなど、ライフサイクルコストを縮小することが可能です。
このような特徴・強みから、アクアレイヤーは病気などの理由で身体の自由がききにくい方やお年寄り、こども園などの床暖房に最適との評価を得ています。
マガジンで建築家のレビューを見てみませんか?
CLASS1 ARCHITECT Vol.19では、建築家の安宅研太郎氏によるアクアレイヤーのレビューを公開。そのほか、安宅研太郎氏が「かがやきキャンプ」に使用した建材を紹介しています。
医療施設・福祉施設に携わる方は、建材選びの参考にぜひご覧ください。
(アプリ「CLASS1 ARCHITECT PORTAL」のインストールが必要です)