湿式成形タイルと乾式成形タイルを比較。タイルメーカーに聞いたそれぞれの特徴と最適な採用場所
CLASS1 ARCHITECT Vol.22で特集した「八戸市美術館」のベンチには、株式会社ダイナワンの特注タイルが使用されていました。
「八戸市美術館」で採用されたのは、湿式成形で作られた施釉タイルです。タイルはその成形方法によって「湿式成形タイル」と「乾式成形タイル」に分けられ、見た目や適したサイズ、おすすめの採用シーンなどが異なります。
今回は、株式会社ダイナワンへの取材を基に、「湿式成形」のタイルと「乾式成形」のタイルとで、特徴にどのような違いがあるのか、どのような使い分けができるのかを比較します。
湿式成形タイルとは
ダイナワン社の湿式成形タイル
水分を含んだ粘土を、押出成形機でところてんのように押し出して板状にしたもの。好きな寸法に切断してタイルを成形できる。
原料の含水率が高いため、焼成時に収縮やひずみが生じやすい。
(AⅠ類、AⅡ類、AⅢ類 と表記される)
乾式成形タイルとは
ダイナワン社の乾式成形タイル
パウダー状の原料を金型に充填し、プレスして成形したもの。乾燥や焼成の時間が短い。
湿式タイルに比べて伸び縮みが少ないため、寸法精度が高く品質が安定している。
(BⅠ類、BⅡ類、BⅢ類 と表記される)
湿式成形タイルと乾式成形タイルの比較
株式会社ダイナワンへの取材より、それぞれの特徴を表にまとめました。
湿式成形タイル | 乾式成形タイル | |
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見た目 |
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適した サイズ |
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形状の 自由度 |
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使用に 適した場所 |
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見た目
湿式成形
湿式成形のタイルは、焼き物特有の重厚感や自然な色幅が出るのが特徴です。レンガのような「味わい」や「温かみ」のある仕上がりになります。
ダイナワン社によると、「湿式成形タイルに釉薬を施すことは少なく、素材そのものの味わいを活かすことが多い」とのこと。
釉薬と掛け合わせた湿式成形タイル(TURQUOISE)
「しかし近年では、レンガタイルの持つ温かみやクラフト感を求め、土の質感と釉薬の妙を掛け合わせた商品も各社ラインナップするようになっている」といいます。
乾式成形
乾式成形のタイルは、均質でシャープな見た目が特徴。湿式成形に比べ色幅も少なく、使いやすいタイルです。
最近では、インクジェット技術により石柄などがデザインされたタイルもあり、本物の石かタイルか、一般の人が判別することはできないほど、デザインや表現の幅が広がっています。
適したサイズ
湿式成形
湿式成形のタイルは、60mm×227mmの煉瓦サイズが一般的。正方形の形状だと、100×100~200×200くらいまでの形状が製造しやすく、長方形の形状で、幅40~120×長さ100~230くらいまでの形状が製造しやすいといいます。
乾式成形は使用する型によってサイズが決まってしまいますが、湿式成形タイルの原材料となる粘土は可塑性があるため、「寸法の自由度が高い(同じ粘土を好きなサイズで切断できる)」のが特長です。
例えば、1mの壁面にタイルを貼る場合、乾式成形品だと、1mの長さに対し割り切れる200mmや100mmの型の製品であれば綺麗に割付ができますが、300mmの型の製品は最後に端数や切ものが出てしまいます。一方で湿式成形の特注品なら、長さ250mのタイルを4枚並べるか、長さ200mmのタイルを5枚並べれば、綺麗に割付ができます。
反対に、湿式成形に不向きなのは、モザイクタイルのような極端に小さなサイズのタイル。は粘土を押出しピアノ線で切断して一つ一つのタイルを成形していくため、成形の効率が悪くなります。
また、伸び縮みだけでなく、反りの影響を受けるため極端に大きなサイズのタイルも苦手。「寸法や形状に不良が多くなると、当然コストにも跳ね返るし、現場での施工も大変。貼りあがりの見映えも悪くなってしまう」といいます。
乾式成形
乾式成形タイルは、用途に応じて様々なサイズがあります。
例えば、床材として使用されるのは100×100、300×300、300×600、600×600などのサイズ。大きなものであれば600×1200まであります。
ダイナワン社によれば、「この10年くらいで、海外では技術革新もあり、1,500×3,200のような超大型タイルも誕生し、日本でも輸入し取り扱うようになっている」とのこと。反りや収縮が小さいため、このように大きなサイズの成形も可能です。
乾式成形のモザイクタイル(DENIM BLEND)
また、インテリアで使用される小さなモザイクタイルなども、乾式成形のタイルです。乾式成形では原料を金型に充填しプレスするだけで、一度に何十ピースもの生地を効率的につくることができます。
形状の自由度
湿式成形
湿式成形は金口から粘土を押出して成形するため、基本的には長方形や正方形を作るのに適しています。
一方で、粘土細工と同じ要領で、様々な形状に調整したり、細工を施すことができます。八戸市美術館の外構タイルでも、各ベンチのカーブや曲率に合うよう一つ一つ成形していました。
八戸市美術館の外構に使用した手作業成形の湿式タイル
乾式成形
乾式タイルは原料を金型に入れてプレスするため、型によって形状が決まってしまいます。
そのかわり、乾式成形は型さえ準備できれば、丸や三角、凸凹等、ユニークな形状を量産することが可能です。
使用に適した場所
湿式成形
「温もり」「温かみ」「人工的ではない自然な風合い」や「重厚感」が求められるようなシチュエーションでは、湿式成形のタイルがおすすめ。焼き物らしい色バラつき、タイル端部の歪みで、味わいやクラフト感を演出することができます。
ダイナワン社によれば、そのなかでも多いのは、外装の壁での使用です。元々、「レンガの薄いもの」のイメージで作られた湿式成形タイルは、躯体に貼りつけることで、レンガを積んだような外観を演出します。地震が多い日本ではレンガ積みは倒壊の恐れがあり、レンガを積むかわりに安全性の高いタイルが多く採用されてきたそうです。
一方で近年では、人の目線や人の手に触れる内装壁向けの湿式タイルも多くなっているといいます。
乾式成形
乾式成形タイルは、外・内の床、内装壁、マンションの外壁など幅広いシーンで採用されています。
釉薬を施すことの多い乾式成形のタイルは、タイル表面からの吸水も少なく、汚れに強く、清掃性もよく衛生的。外部、内部、壁、床問わず使用される使いやすいタイルです。
ダイナワン社によれば、タイルメーカーの商品ラインナップは多くが乾式成形品で、色、形状などのバリエーションも豊富。「通常は乾式タイルを提案することが多く、お客様が素材に求める役割や空間イメージに応じて湿式タイルを提案している」といいます。
湿式成形の特徴を活かした「八戸市美術館」の事例を公開中
CLASS1 ARCHITECT Vol.22では、湿式成形タイルを使用した「八戸市美術館」の採用事例を公開中です。
「八戸市美術館」では、焼き物特有の風合いが出る湿式成形タイルを外構のベンチに採用。採用を決めた建築家の浅子佳英氏によるレビューと、メーカーであるダイナワン社の開発秘話を無料で閲覧できます。