木製サッシメーカータミヤさんを取材!大開口向けヘーベシーベの魅力
目次
今回はちょっとプレミアムな木製サッシ「ヘーベシーベ」をご紹介します!大開口サッシとしてはアルミが一般的ですが、木製サッシメーカーとして有名なタミヤ株式会社(奈良県磯城群)さんを取材して分かった木製ヘーベシーベの魅力をお伝えします!
そもそもヘーベシーベとは?
ヘーベシーベとは「ヘーベシーベ」という金具を使用している戸・窓のことです。この金具によりサッシ同士が密着するため気密性が高まります。ドイツ語で「hebe(ヘーベ)=上がる」「schiebe(シーベ)=引く」という意味。そのとおりヘーベシーベは「持ち上がって、引ける」特長をもっています。ちなみに木製以外のヘーベシーベではアルミと樹脂のヘーベシーベがあります。アルミのへーべーシーべはビル建材がほとんどで戸建ては見当たりません。樹脂はドイツの「エーデルフェンスター」があります。
ヘーベシーベは大型引戸や掃き出し窓、腰窓に使われます。写真のようにレバーハンドルを上から下へ180度回転させるだけで、大きなサッシも楽々動かせます。実際に動かしたときの様子の動画はこちらです。
タミヤさんのヘーベシーベ「WOOD FENSTER(ウッドフェンスター)」の開発背景
もともとアルミサッシの製造販売と特殊なガラスのコーティングをしていたタミヤさん。これを活かし何か事業が出来ないかと考えていた中、環境先進国ドイツに訪問したのが開発のきっかけとなりました。当時日本ではアルミサッシが主流の中、訪問したドイツで木製サッシの普及率を目の当たりにします。その頃国内にも木製サッシはあったものの、輸入品が多く国産品はありませんでした。そこで国産品を作りたいという思いから1989年に開発開始したのがこの「WOOD FENSTER」。2年後の1991年から本格的に販売を始めました。
「インターネットでの商売はまだ無い時代でした。窓もアルミが全盛期。地道なPRを続けていきました。タウンページを利用しての営業も行いましたね。中でも一番手応えがあったのは展示会への参加かな」」と語る民谷社長。東京・大阪・名古屋の展示会へ参加して全国にアピールし、ようやく軌道に乗ったときには5~6年経過していました。インターネットで集客できる今とは違い、地道なタミヤさんの営業活動を肌で感じました。
ヘーベシーベの種類は?
開閉パターンにより「引き違い」「片引き」「引分け」「引込み」の4種類に分かれ、さらに引戸の枚数を変更してバリエーションをもたせられます。掃き出し窓のような2枚引戸に加え、上記写真のような3枚片引きや4枚引き違いにもデザイン可能。
4つの開閉パターン
【引き違い】
二本の溝にはめて、2枚の戸を左右のいずれかに引いて開閉する戸。
左右どちらにでも開閉できる。
【片引き】
建具枠と1枚の引き戸で構成されたもの。
一本の溝にはめて、左右どちらかの戸を開けるようにした引き戸。
【引分け】
一本の溝にはめて左右に引いて開けるようにした引き戸。両引き戸。
【引込み】
一本の溝にはめて左右に引いて開けたときに、戸が壁内などに隠れるようにした引戸。
ヘーベーシーベを採用する注意点として、冬など網戸を使用しない時に網戸を仕舞って置く場所が必要なことがあります。大開口になればなるほど網戸も大型になりますからね。そんな網戸にも種類があり、通常の引違い窓は一般的な木製網戸で、片引戸・引込戸・引分戸になると収納可能な「プリーツ網戸」や上に収納する「ロールアップタイプ」もあります。ちなみにタミヤさんでは木製網戸以外に「アルミ網戸」「プリーツ網戸」「ロールアップ網戸」といったラインナップを展開しています。
タミヤさんが木材に行う3つの工夫
タミヤさんは木材に3つの工夫を行っています。
その1. 木材の乾燥
「通常、建築用木材の乾燥は含水率15~18%位なのですが、木製サッシの場合この含水率では反りや割れが発生する可能性が高くなります。窓枠の一方は室内、もう一方は室外にあるため温度や湿度が違うことから収縮率も変わります。そのためタミヤでは自社で含水率8~9%前後まで乾燥し、約1年間材料を養生しています。窓枠に加工する前に四季を経験させ、含水率12%前後まで戻し使用しています。北海道から沖縄まで気候や湿度の違う環境で使用されるため、乾燥は大切な工程だと考えています。」(民谷社長)
その2. 材料の積層
木を寄せ集めた集成材とは違い、無垢材を態々引き割り一枚ずつの癖を緩和するよう3枚の板材を接着する積層を採用しています。接着剤もホルムアルデヒトが含まれないF☆☆☆☆のものを使用。継ぎ目の面は硝子と金物で見えなくなり、表面は継ぎ目がまったく出ません。積層にすることで反りにくくなり、万が一割れた場合でも貫通しなくなります。
「木の素材は反りなく上手に使用するのが一番難しいので、それをどうにかする為の工夫のひとつが積層です。」(民谷社長)
その3. 木材の表面仕上げ
基本的に木製サッシは木材なため、そのままでは雨水や紫外線で表面の木材がどうしても劣化してゆきます。それを保護するのが塗装で、タミヤさんでは水性のホルムアルデヒトを含まない無害な塗料を使用しています。ですが単純に木に塗るだけでは塗料の劣化が早くなるため、木製サッシのパーツを一旦カンナで仕上げ、加工後サンディングマシーンで木表面を研磨します。この機械での工程は、荒い研磨から細かい研磨の順で仕上げます。細かい研磨の表面は塗装の染み込みが少なくなるため、次工程では人の手と目で確認し塗装が染み込みやすいよう一つ一つ手で研磨していきます。荒すぎても仕上がりが悪くなるし、細かすぎても塗装の染み込みが悪くなるので、熟練の作業が必要になってきます。
それ以外にも “腐る” “反る” “割れる” という欠点を克服した木材でも木製サッシを製作しています。無害な酢酸を含浸させたアセチル化木材という材料で、湿気を吸収しにくくするだけでなく、虫にも強く、耐候性の高い木材です。「普通の木材は塗料も踏まえて窓を保護しますが、アセチル化木材は素材自体が腐りにくく、反りにくく、割れにくい木製サッシには相性のよい木材です。高くにある窓など、メンテナンスしにくい場所に取り付く窓には大変有効です」(民谷社長)
ガラスまで自社製造!?
タミヤさんはガラスも自社製造。これは木製サッシ工業会の会員の中ではタミヤさんだけ。一番人気のヘーベシーベの標準仕様は透明フロートの複層ガラス。オプションは7つあり、全部で8種類から選べます。
- 透明フロートの複層ガラス(標準仕様)
- 高性能熱線反射複層ガラス(REF-E 複層ガラス)
- 高断熱複層ガラス(LOW-E 複層ガラス)
- 防犯複層ガラス(室内側合わせガラスの中間膜が通常の2倍以上)
- 合わせ複層ガラス
- 強化複層ガラス(同じ仕様の通常ガラスに比べ約3倍の耐風圧強度)
- 防音複層ガラス(ガラスの異厚構成と特殊ガスにより、高い遮音性と断熱性能がアップ)
- トリプルガラス
ちなみに上の写真はトリプルガラスの断面図。ガラスの形状も選べ(例 : 複層コーナーガラス・複層曲面ガラス)、サイズのオーダーメイドにも対応しています。
ヘーベシーベの基本性能
防火設備認定番号(オプションになります) | EB-0096(ヘーベシーベの番号です) |
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断熱性能(ガラス仕様により変動) | JIS H-4等級、H-5等級(最高等級) |
気密性能 | JIS A-4等級(最高等級) |
水密性能 | JIS W-4等級、W-5等級(最高等級) |
耐風圧性能 | JIS S-5等級、S-6等級、S-7等級(最高等級) |
遮音性能(ガラス仕様により変動) | JIS T-2等級 |
防犯性能(オプションになります) | 防犯性の高い建物部品としてCP認定取得 |
使用溶剤 | F☆☆☆☆ |
設置後に必要なメンテナンス知識は?
実際に設置したらどんなメンテナンスが必要なのでしょうか。主なメンテナンスは塗装で、新築後1年目と2~3年に1回の頻度です。再塗装には濃い色が推奨されています。
塗装の手順
- 濡れた布で拭く
- 乾いたら目の荒さが#800〜#1500の耐水ペーパー(紙ヤスリ)で塗装が落ちないようにこすります
この時にヤニがあればヘラで除去します - マスキングテープでガラス、金具など、木部以外を保護します
- 「ガードラックス ラテックス(3,360円)」を刷毛で塗る
※金物可動部分は市販の潤滑剤で大丈夫です。
メンテナンス頻度を下げる工夫として、「屋根や庇を長くする」「室内側に寄せて取り付ける」「濃い色で塗装する」といった対策も効果的。
実際のへーべーシーベの施工事例
以前は別荘などへの納入が多かったのですが、最近では学校、幼稚園、養護施設への納入が多いとのこと。
ここで実際の施工事例をみていきましょう。
1.京都市動物園(京都府)
引用元 : タミヤ株式会社のホームページ
引用日 : 2016年6月24日
正面エントランス内のレクチャールームで使われている、4枚引き分けのヘーベシーベ。沢山の人が一度に出入りできるように大開口になっているんですね。ガラスに動物のシールを貼るとより柔らかさが増します。
2.京都大学 吉田寮 新棟(京都府)
設計 : 株式会社 内藤建築設計事務所
施工 : 株式会社 淺沼組引用元 : タミヤ株式会社のホームページ
引用日 : 2016年6月24日
写真左の窓がヘーベシーベ。冬も隙間風で手がかじかむこと無く勉強ができそう。
畳にもマッチしますね。
3.ほし幼稚園(埼玉県)
設計・施工 : ケーアンドイー 株式会社
引用元 : タミヤ株式会社のホームページ
引用日 : 2016年6月24日
最後は2枚引き違いのヘーベシーベ。コンクリート構造の一部に採用することで、がらっと雰囲気変わりますね。木育という言葉もあるように、子どもたちはこの違いを大人以上に敏感に感じるかもしれません。
ほっこりする温かみを味わえる木製サッシ
奥深い木製サッシの世界を案内してくださった民谷社長、ありがとうございます。木の美しい見た目と高い気密性により、別荘で多く使われていると聞いて納得です。
ほっこりする温かさを感じられる木製サッシという選択肢。知っておいても損はありません。こちらの記事も参考にどうぞ。
この建材のポイント
オススメなのは? | 大きい開口部が欲しいと考えているお施主さん |
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一番の強みは? | ヘーベシーベ機構により高い気密性がある |
施工の強みは? | ネジの他、溶接での取り付けも出来るので、あらゆる工法の建物に取り付け可能 |